学園(姫)
「足を止めて、どうしたのじゃ?」

いつの間にか、龍先輩と乾は俺の前を歩いていた。

龍先輩の事を考えていて、足を止めてしまっていたらしい。

「何でもありません」

しかし、龍先輩の視線は何かあると疑っていた。

俺は再び龍先輩の隣に並び、歩き始める。

「その、今でも連絡をとっているんですか?」

「アヤツはいつの間にか引っ越しておってのう」

「なるほど、ね」

その男が龍先輩に恋心を抱いていないといえようか。

ないとは言えない。

美化された記憶が一層恋心を引き立てていたとしよう。

そして、今の可憐なる龍先輩を見て、恋心が爆発しないといえようか?

パターンを想定するとしよう。

龍先輩を忘れて、彼女がいる。

龍先輩の記憶はあるけれど、もう関係ないし今の生活を楽しもう。

龍先輩の記憶もあって恋心もある。しかし、遠距離すぎてどうしようもないので諦める。

龍先輩の記憶もあって恋心もある。必ず迎えに行って付き合おう。

連絡を取っておらず、現実的に考えるというのなら、一、ニの線が濃い。

しかし、理由があって取れないという場合、全てが当てはまるわけだ。

駄目だ。

どうあってもネガティブキャンペーンが発動してしまうではないか。

「龍先輩」

俺は先輩の手を握る。

「何をするのじゃ?」

不味い。

勢いあまって要らぬ事をしてしまった。

「えっと、その、ああ、あれですよ、あれ」

「あれとは何じゃ?」

「今日は寒いですから、お互いに温め合おうかと思いましてね」

「今は、夏じゃ」

今日、何度目かのジト目が痛い。
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