学園(姫)
「先輩、乾は?」

「そういえば」

龍先輩でさえも、乾の存在を忘れてたというのか。

いや、穴に挟まっていれば、焦って気付かない事もある。

次の瞬間、傍にあった木の上から降りてくる。

「どうした?」

何事もなかったかのような、対応である。

「そなた、何をしておった?」

「周囲の確認だ」

「何で龍先輩を助けなかったんだ?」

「助けた方が良かったか?」

乾は俺のやるべき事を理解していたかのような言い方をする。

もし、乾が龍先輩を助けたとした場合、俺の打つべき手は閉ざされてしまっていただろう。

都合がいいかもしれない。

しかし、俺にとってはありがたい手助けであった。

「龍先輩、とりあえず、帰りますか?」

「丞、その、何じゃ」

「ん?」

「以前、そなたの家で料理を作ると言ったまま、せずに帰ったじゃろう?」

「そうですね」

仕方ないといえば仕方ない。

あの時は精神状態も危うかったし、無理矢理作らせるほど鬼畜でもないぞ。

「その、もう一度、ワラワにチャンスをくれぬか?」

「先輩」

誠実さを拒もうものなら終身刑モノである。
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