学園(姫)
「俺のほうからお願いします」

最初にお願いしたのは俺だ。

だからこそ、俺も頭を下げるべきである。

「あの、もう一つ、お願いがあるのじゃ」

「何です?」

「丁寧語を止めて欲しいのじゃ」

「これ、ですか?」

「うむ、他人行儀な気がしてならぬ」

いきなりタメ口にしろっていうのも難しい気がするな。

でも、先輩が望んでいるのなら、やらないとな。

「わかった」

「それでよい」

本当、定番っちゃ定番ではあるが、本人にとっては冷や汗ものだ。

あの場面で断られていたらと思うと、ぞっとする。

乾は帽子を深く被り、見てみぬフリを決め込んだ。

「さてと、じゃあ、今日は帰ろうか」

「明日、寄らせてもらってもよいか?」

明日は何もない。

むしろ、用事があったところで、キャンセルするくらいの勢いはある。

「先輩ならいつでも歓迎さ」

「うむ、ならば、明日の十三時に寄らせてもらうのじゃ」

「おう」

龍先輩は乾を連れて帰っていった。

また明日、会えるのなら一緒に帰る必要もないだろう。

いや、一緒に帰りたいのは山々だけど、先輩も一旦、心の中の整理をつけたいだろうしな。

「俺も、帰るか」

非常に精神力を使ったような気がする。

今日はゆっくり休めそうだ。
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