学園(姫)
必要最低限の忠告はしてくれる。

しかし、全てを退けるような事はしない。

基本的に、悪い人ではないんだよな。

俺の気持ちも理解しているといったところだろう。

乾の忠告を頭の片隅において、旧館へと向かった。

乾がいるという事は、龍先輩もいるという事だ。

何もなしに用心棒の乾が学校に来るわけがない。

「行こう」

部室の前に辿り着き、身なりを整える。

ニ、三度ノックをする。

「誰じゃ?」

「俺っす」

気付いてもらいたいという儚げな願いを込めながらも、俺で通そうとする。

「俺?」

「俺っすよ、俺」

「詐欺は受け付けておらん。帰るがよい」

明らかに分かっているけれど、本当の事を言うまでは通さないという寸法だろうか。

龍先輩ったら、お茶目な人だぜ。

「葉桜っすよ」

「入るがよい」

扉を開けた先では、龍先輩が畳の上で正座をしながら目を閉じている。

「何をしてるんですか?」

「精神を統一させておる」

答えるものの、俺のほうを向こうとはしない。

「お邪魔、しちゃった感じですか」

「良い」

目を開き、柔らかな表情で微笑んだ。

やっぱり、素直に可愛いと思える人だ。
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