学園(姫)
「ちょっと、待っててもらえます?」

「なんじゃ?」

俺は傍にあるコンビニまで走り、お茶を買った。

「安物ですけど、今日のお礼です」

「そんな事、気にせずともよい」

「もう買っちゃいましたよ」

「しょうのない奴じゃ」

龍先輩は苦笑しながらも受け取った。

「おい、乾!」

少し離れた位置の乾にお茶を投げる。

それを片腕で受け取った。

「いつも姫ちゃんを守ってるあんたへの礼だ!」

深く被った帽子で表情は見えないが、少し頭を下げたような気がする。

「本来ならば、物を受け取るような事はしないのじゃがな」

「どんなものでも油断はしないか」

「飲む飲まないは別にして、気持ちは受け取ったという事になろう」

「そうかもしれない」

再び歩き出したものの、龍先輩は足を止めた。

「ここらでよい」

「そう?」

「うむ、家もすぐそこじゃ」

「そうか、少し寂しくなるな」

「すぐにいなくなるというわけでもあるまい」

「え?」

「何でもない。また明日も会える」

聞き返しはしたものの、聞き逃していない。

すぐにいなくなりはしないが、いなくなる可能性があるという事か。

これは考え物である。

せっかく気分がいいのに、今は問い詰めないほうがいいだろう。

俺は、龍先輩と別れた。
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