学園(姫)
夕焼けも沈み、辺りが暗闇に包まれようとしていた時。

一人家路についている途中だった。

「予想以上に遠くまで歩いていたんだな」

龍先輩と歩いていたから、全然気づかなかった。

夜ご飯までにたどり着くだろうか。

日常的な不安を残しながら、家の近くまで来たところだ。

周囲には誰も歩いていない。

ただならぬ雰囲気が漂っていた。

よくは分からないけれど、危機感を覚えるというのだろうか。

鳥肌まで立っている。

「この時間なら、まだ人は歩いていてもおかしくないんだけどな」

不安に更なる拍車をかける。

「ん?」

前方には誰かがいる。

背丈と外見から、一般人の女子かと思っていた。

それは見間違えで、一般人の身なりをしていない。

零の眼帯のせいなのか、大きなケースを持っているせいなのか。

その女子とは、クラスメイトの乾子鉄だ。

「よう、お前もここの近くに住んでるのか?」

俺の問いの答える事はない。

ただ、こちらを見ているだけだ。

しかし、すべてを見透かされたかのような気持ちになってくる。

今の雰囲気は乾から出ているといってもおかしくはない。

「あのさあ」

突然、声を上げたのは乾だ。

「何だ?」

「龍姫から、手を引いてくれないかな?」

乾子鉄が何を言っているのか、すぐには理解できなかった。
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