白雪姫の惚れ薬
学芸会、ねぇ。
あのとき……
“白雪姫”の話を朱李に教えてやったのは、まぎれもなくこの俺だ。
姉ちゃんに教わった話を得意気に朱李に披露しただけなんだけど。
聞き終わるなり、
「あかり、それやりたい」
朱李は、すぐさま園長室に駆け込んで行った。
そして、次の劇は絶対に“白雪姫”にしてくれ、と。
主役は自分がやる、と。
直談判した。
朱李の勢いに負けて、それは実現したわけだけど……
「なんで、しんちゃんが王子さまじゃないの?」
王子様役は、クラスの人気者の“さとしくん”。
全員一致で決まったはずなのに、朱李は気に入らなかったようで……
「しんちゃんじゃなきゃ、やだ。」
そう言って暴れて、大泣きしたんだ。
なんで、俺がよかったのか。
単純なこと。
朱李は“さとしくん”が嫌いだったから。
みんなにやさしい“さとしくん”は、朱李にだけ意地悪だったから。
「好きな女の子には意地悪してしまう」ってやつに他ならなかったんだけどね。