白雪姫の惚れ薬


そんな姉ちゃんが、

『白雪姫』を読み終えたとき―――



「ねえ、芯?」


珍しく静かに、無表情で俺を見た。


「なぁに?」


それがなんだか妙に怖くて、俺はびくびくしていた。

頭の中に、さっきの魔女の姿が蘇る。


「この…リンゴってさぁ」


閉じたばかりの絵本をめくりながら、姉ちゃんがぼんやり呟いた。


「本当に“毒リンゴ”だったのかなぁ?」

「へっ?」

「だってさぁ…白雪姫は、結局なんともなかったじゃない?
眠ってただけじゃん」


挿し絵を指差しながら、姉ちゃんは言う。


「ただの“睡眠薬”だったんじゃないの?本当は魔女に殺意なんてなかったんだよ、きっと。」


……何度も言うけど、

このとき、姉ちゃんは小学生。

確か…5年生くらい。


やたら大人びたセリフを使っていた。


「むしろさぁ…」



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