嘘と秘密と僕らの関係
ひなたの住むマンションまでは、歩いて10分もかからない。
かなり近い。
でも、やっぱり危ないから。
俺は毎回、こうして家まで送り届ける。
ふたりきりになりたい、っていうのが本音だけど。
「やっぱり夜は寒いね。もう冬だもんね。」
しみじみと言いながら、ひなたは両手をこすり合わせた。
小さな手……
つなげたら…つなげるような関係だったら、すぐにでも温めてあげるのに。
すぐ隣にいるのに、触れることは許されない。
“まだ”そういう関係じゃないから。
近いのに遠い。
俺とひなたは、まさにそんな感じだ。
一言でいいんだ。
「好きだ」って言えばいい。
そうすれば、何かが変わるはず。
変えられるはず。
今の関係を打ち破る手段。
でも…なかなか言えないんだよなぁ。
「郁ちゃんありがとう。ここでいいよ。」
気がついたら、マンションの前まできていた。
「また明日ね」
そう言って、にっこり笑って去っていくひなた。
家に上がることすらできない。
はぁっ。
小さくため息がもれた。
俺はいつまで、
この関係を続けるつもりなんだろう―――?