双羽の蝶
『今日会いに行くから、
部屋を片付けておくようにね。』
早朝6時50分。
ボクは耳元で突如振動を始めたケータイのバイブレーションによって目を覚ます。
意識のはっきりしないままボクは深紫色のケータイに手を伸ばして、メールの確認をする。
あと10分待った後に送ってくれれば、少しはまっとうな時刻なのだが‥。
しかし貴重な朝の10分を奪われた苛立ちは、差し出し主を見ると同時に、綺麗に飛散してしまった。
夜来奏(やらいかなで)。
ケータイには奏とだけ入力してある。
フルネームが基本のボクのアドレス帳内では異色の短さで目立っている。
名前だけにしてある事にはちゃんと意味がある。
奏は、ボクの彼女だからだ。