春の旋律



私はいそいそと先生のピアノの前に座って、


「下手だけど、笑わないでね」


と言って、弾きはじめた。


弾きはじめた瞬間、先生が息を呑んだのがわかった。


私は懸命に弾き続けた。


テンポは速くなったり、遅くなったり、ぐちゃぐちゃ。


音ミスも大量だ。


けど、先生は笑わなかった。


真剣に聞いてくれた。


そして、弾き終わった瞬間、私は感極まって、涙をこぼしてしまった。


「畑中さん………。僕がこの曲好きだから、練習してくれたんですか」


私はこくこくと頷いた。


すると先生はふわりと笑って、
頭を撫でてくれた。


「ありがとう……嬉しい」


「先生みたいに、上手く弾けなかったけど……」


「そうですね…。確かに発展途上な演奏だったけど、音に乗っかってる想いは、伝わったよ」


「ほんと………?」


ゆっくり先生は頷いた。


私は自然と笑顔になった。




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