【歪童話】人魚姫と王子の幸せ
君は生きていてはいけない存在であるし

死の安息も許されない奴だ

その存在が罪

生まれてくるべきじゃなかった

そうすれば、僕だって少しは普通だっただろうに




「……幸春」

分厚い本を閉じて、幸春は笑った。

「待っていたよ、姫」

教室は薄暗く、夕日が教室に影を落とす。

ぐらりと、世界が歪むような、幻想的で、恐ろしい時間。

「そろそろだと思っていたんだ。ずっと、待っていた」

「……」

「最後に一つ、教えてあげるよ、姫」

幸春の瞳は私をまっすぐ見つめている。

「この世に絶対なんて、絶対にないなんて嘘だ」

幸春は視線をそのまま後ろに移動させる。

「この世は絶対だらけなんだよ。偶然は起こってしまえば必然に。ありえない奇跡は真実でしかないし、どうしようもなく決まった未来もある」

幸春は、夕日を眩しそうに見つめた。

「たとえば、姫が僕を殺す事だって絶対だ。間接的にでも、直接的でも、僕と、姫がこの世界に生まれてきてしまった時点で決まっていたことなんだ」

「……うん」

「だって、人魚姫は王子を愛してしまったから。だけど、諦めざるを得ないから」

「そう」

ゆっくり、その首に手を伸ばす。

そのまま後ろから抱きしめて、暖かさを感じる。

しばらくして、私は窓の前にいた。

夕日が沈みかけている。

人魚姫は、海に身を投げ泡になった。

私も、消えて元に戻るかな。






コイビトは血に沈み

姫は屍体も残さず消えていく
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