傷だらけのヴィーナス
再度呼びかけると、返事の代わりに主任の手が動いた。
その手は再び私の頬を捉え、俯きがちな私を上向かせる。
そのあと、指は私の頬を撫でた。
「や、やめてください」
私はもう一度、震える声を振り絞った。
頬を撫でる指は傷口になりかけている部分までも触れていく。
なんで?
なんでこんなことするの?
今は勤務時間内で、遠くからは電話の音や打ち合わせをしている声が聞こえるのに。
「…離れてほしい?」
どうしたらいいかわからず固まっていると、囁くように主任はそう言ってきた。