傷だらけのヴィーナス
私が帰る支度を終わらせた頃、見計らったように主任はやってきた。
「行こうか」
「…はい」
私は俯き、ただあとをついていく。
「そう緊張しないでよ。俺までどうしたらいいかわかんなくなるから」
歩きながら、前を見たままそう言う主任。
見えてないのに、私の様子に気づいているの?
それからしばらくあとをついて歩き、たどり着いたのは駐車場。
主任は黒のセダンに近づき、こう言ってきた。
「助手席でいい?」
私の返事を聞く前に、助手席のドアを開けて待っている。
まるで執事のような振る舞い。
私は恐縮しながらもそこに乗り込んだ。