傷だらけのヴィーナス
助手席に乗った私は手持ちぶさたになり、自分の指を見つめた。
昨日あまりにも緊張してしまったからか、眠りながら指を掻きこわしてしまったらしい。
無数の傷跡が残っていて、隠そうにも隠せなかったのだ。
「―――有紗ちゃん?どうかした?」
運転席に座った主任からそう声をかけられるまで、私は傷跡を眺めていた。
「あ、いえ。…大丈夫ですよ」
「なら行くよ。あと、二人の時は主任とかやめようね」
「へっ!?」
「左京。言ってごらん?」
突然の提案に、私は顔が真っ赤になった。
な、名前でなんて呼べる訳ないじゃない!
間部主任、もとい左京さんは楽しそうにこちらを眺めながら車のエンジンをかけた。