傷だらけのヴィーナス
「ほら、左京。言ってごらん?」
運転しながら、そう言ってくる間部主任。
私の中では主任は主任で、名前でなんか呼べないのに。
「…なんか、呼びづらいです」
「そう?残念だなぁ」
大して残念そうでもなく、間部主任はそう返してきた。
窓の外へ目をやると、大きな建物が見えてきた。
車もそちらに曲がっていく。
車は、郊外のショッピングモールへ向かっているようだった。
そこには映画館も併設されていて、最近社内でも話題になっていた。
「なかなか混んでるね。駐車場あってよかったわ」
車から降り、私たちは映画館に向かって歩く。
私の隣を歩く間部主任は、周りからの視線を浴びていた。