傷だらけのヴィーナス



そのあと、私たちは今流行りのファンタジー映画を見ることにした。

「これ見たかったんです」

「うん、なかなか面白そう」

私たちは、そんな会話をしながら座席に座った。

次第に辺りは暗くなり、映画は始まっていく。
私は、夢中になり映画を見ていた。



―――ギュッ…


映画も終盤に差し掛かり、クライマックスへの大事なシーン。

その中で、膝の上に乗せていた私の手は間部主任に握られていた。

「…かわいい」

聞こえないようにそう囁いたであろう声は、実はしっかり私まで届いている。

私は振り払うこともできずに、そのまま映画はクライマックスを迎えた。


< 46 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop