傷だらけのヴィーナス
そのあと、私たちは今流行りのファンタジー映画を見ることにした。
「これ見たかったんです」
「うん、なかなか面白そう」
私たちは、そんな会話をしながら座席に座った。
次第に辺りは暗くなり、映画は始まっていく。
私は、夢中になり映画を見ていた。
―――ギュッ…
映画も終盤に差し掛かり、クライマックスへの大事なシーン。
その中で、膝の上に乗せていた私の手は間部主任に握られていた。
「…かわいい」
聞こえないようにそう囁いたであろう声は、実はしっかり私まで届いている。
私は振り払うこともできずに、そのまま映画はクライマックスを迎えた。