傷だらけのヴィーナス
「―――あ、」
間部主任は、ふと私の方を見て動きを止めた。
そして凝視する。
「…知り合いか?」
小林君にそう聞かれたが、私はあんな人知らない。
「違う…はずなんだけど」
私はそう答えるしかなかった。
―――間部主任の行動に、次第に周りもざわつき始めた。
そんな中、間部主任は私の目の前に向かってきた。
「……あのときの」
そう言いかけて、彼は私の顎に手をかけた。
「俺のこと、覚えてる?」
鋭い視線が柔らかく私を見つめる。
私は、そのまなざしから逃げることができなかった。