傷だらけのヴィーナス
お昼休み、私と小林君は会社の屋上で寂れたベンチに並んで腰をかけた。
寒くなってきたからか、ほかには誰もいない。
内緒の話をするならぴったりの場所だった。
「俺、昨日見たんだ」
そう話を切りだし、小林君は話し出した。
「昨日は櫻井さんとかと飲みに出かけててさ、間部主任が派手な女と、その……ホテルに」
私は空を仰ぎ、小林君の言葉を聞いていた。
なるべく落ち着いて聞いていたつもりだった。
どこか、こうなる予想はしていたのかもしれない。
「…ありがとね」
私はそう言って、お昼用に買ったパンをかじる。
パッケージには“チーズ味”とあるのに、全く味のしないパンだった。