傷だらけのヴィーナス
私は、櫻井さんに背を向けるように作業を続けた。
聞きたくない。
そんなささやかな意思表示のつもりだった。
しかし、櫻井さんはめげることなく話を続ける。
「左京は、プライベートを仕事に引きずらないやつだと思ってたけど、どうやら違ったみたいだった。……誰のおかげかな?」
私は、手を動かすのを止めて櫻井さんをにらみつけるように見つめた。
「誰でしょうね。私は関係ないはずです」
「うわぁ、相当怒ってるね。左京も馬鹿だなぁ。せっかく女神様に会えたのに」
………女神様?
「櫻井さん、なに言ってるんですか?」
無視しよう。
そう思っていたのに、私は思わず櫻井さんの放った一言に反応し、そう尋ねていたのだ。