傷だらけのヴィーナス
「…お先に失礼します」
私はそう言い、足早に立ち去ろうとした。
しかし、間部主任はそんな私の行動なんてお見通しだとでも言わんばかりにこちらに駆け寄ってきた。
「日中はごめん!…でも俺、その……」
「大丈夫です。私こそすみませんでした」
当たり障りのない言葉を交わすと、辺りには静寂が訪れた。
「……今夜も美和さんと会うんですか?」
口火を切ったのは私から。
私は、まっすぐ間部主任の顔を見ながらそう尋ねた。
「今夜も…?」
「小林君が、昨日主任と女の人が一緒にいるのを見たって言ってましたから」