傷だらけのヴィーナス
私は泣きそうになるのをこらえて話を続けた。
「私は、構いませんから」
「は?」
「主任と美和さんならお似合いですし、…短い間でしたけど、楽しかったです」
私は、呆然としている主任の脇を抜けて入り口まで走った。
「お疲れ様でした。……さようなら」
私はそう告げ、会社をあとにした。
呼び止める声が聞こえた気がしたが、足を止めるつもりはなかった。
「……左京さん…」
会社を出て、まだ明かりのついている窓を眺めながら、私はそう呟いた。
空気がだんだん冷たくなってくる。
秋の風が痛いくらい私の肌に触れてきた。
涙は地面に落ちて、儚くはじけた。