傷だらけのヴィーナス



―――ふわっ…

突然、私の視界は何か黒いものに覆われた。

「もういい、有紗。…泣くな」

私の頭上から声がする。

私の背中をさする手が、次第に私を抱きしめていく。

「………うっ、ぇ…」

私は、身体の力が抜けてしまったみたいに主任にもたれかかっていた。

「なっ…左京!」

「―――美和。おまえ俺を怒らせたいのか?」

今までに聞いたことのないくらい低い声で、間部主任はそう話し出した。

「これ以上つきまとってきたら、ただじゃすまさねぇぞ」

そこまで言うと、美和さんはヒールの音を響かせながら走っていってしまった。

私を抱きしめる力が、いっそう強くなった。



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