傷だらけのヴィーナス



私は、自分の耳を疑った。

「―――主任?」

「ずっと好きだった。初めて会ったときから。…笑った顔が忘れられなかったんだ」

主任は私の身体を一旦自分から離し、私の顔をじっと見つめた。

「覚えてないかもしれないけど、俺、…入社試験で本社に来てた有紗と会ってるんだ」

「………それ、櫻井さんから聞きました」

私はあまりの近さに恥ずかしくなり、俯きながらそう答えた。

すると、間部主任は私の頭を撫でながら話を続けた。



「―――ちょうど、美和と別れたばっかりだったんだ」

私は、主任の腰に腕を回したまま静かに続きを待った。



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