傷だらけのヴィーナス



「あの通り、美和は別の男のところに行っちまって、しばらく恋愛なんてしたくないって本気で思ってた。…でも、有紗に会った」

私はちらりと主任の表情を確認した。
主任は眉を下げ、困ったような表情をしたまま私を見つめている。


「なんて言ったらいいのかな。―――なんだか野良猫のような雰囲気で、とりあえず話しかけてみたくなった」

確かにあのときのことを思い出すと、私は男の人が入ってきたことで警戒心をむき出しにしていた気がする。

私は恥ずかしくなって再び地面に視線を移した。

「最後に見せてくれた笑顔に、一発KOされた気分だったね。また会いたくて、有紗の配属先に異動希望出したんだ」

そう言って、主任は髪をかきあげた。



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