傷だらけのヴィーナス
小林君がいなくなり、私と間部主任だけになってしまった。
人見知りであることも相まって、私が無言で作業を続けていると、間部主任は近くにあるいすに腰掛けた。
「小松さん、下の名前は?」
「…有紗(ありさ)です」
「そうか。有紗ちゃん、今晩ご飯でも行かない?」
「えっ!?」
思いがけない言葉に、私は手に持っていた資料を床に落としてしまった。
「あーあ。しっかりしてそうなのに意外とおっちょこちょいなんだな」
そう言って落とした書類を拾おうとしている間部主任を制し、私は急いで書類を拾った。
私は努めて冷静を保ったつもりだったけれど、すっかり動揺していた。