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逃亡
そして、僕は、今。
薄汚れた換気用ダクトの中を這い進んでいた。
オリヱを追って、この研究所から出るつもりだったんだ。
狭い、とはいえ。
大人が肘でいざれば、移動出来る広さがある。
廊下を堂々と歩くよりマシでも。
忍び込むなら、ここ、と誰でもわかる通路には、普通、罠やカメラが仕掛けられていると。
僕の、埋め込まれた知識が警告する。
だから、僕の狙う場所は、今まで僕が居た研究室の隣の部屋。
研究室に勤めている、職員用のロッカールームだ。
そこまで、たどり着ければ。
ここが、軍事兵器を扱って居る研究所だろうとも。
きっと、逃げだせるだろう。
なにしろ。
僕は、本来。
こんな、セキュリティーの高い、場所に潜入、脱出するためにオリヱに作られた、アンドロイドなのだから。
今まで、一度も、実戦経験がないけれど。
オリヱと九谷が腕を組んで、研究室を出て行くのを止めたかったのに。
僕は、ただ、見送るしかなかった。
何も。
それこそ、指一本動がすこともできない、ことが、悔しくて。
遠ざかってゆくオリヱを見ながら、僕は、焦げそうなほど、熱い思いを募らせていた。
オリヱ……
オリヱ……!
もし、僕が人間だったなら。
血を吐くほど叫んでいたかもしれない。
それほど、オリヱのことが愛しかった。
僕のオリヱをさらって行った久谷が憎かった。
彼が、オリヱに一晩中する、と宣言した行為のことを考えると、頭が煮えそうになった。
それが、人間に作られた、偽物の感情だろうと。
プログラムを強制終了した時に生じる、CPUの誤作動だろうと、僕には、関係無かった。
愛しいヒトを求めて、ココロが叫ぶ。