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 僕の言葉に、研究所内は大騒ぎになった。

 隣の研究室に駆けこんで『シックス・ナイン』とそのデータが消えているのを確認する者。

 上司に報告に走るヤツ。

 そして。


「オリヱちゃんと、シックス・ナインの居所に心当たりがあるから、捜索には、オレも参加する!

 ……が、腰を打って動けねぇ。

 悪いけど、武蔵川さんは、オレのロッカーから、着替えになるモノを探してくれないか?」


「それは、良いですけど、九谷先輩、腰が痛くて探せるんですか?」


 コイツの前で、自分のロッカーが判らず探してたら、バレるかもしれない。

 そう思って言えば、心配そうな顔の武蔵川に。

 腰が痛むなら、九谷先輩は、研究所に詰めていてくださいと言われて、僕は首を振った。


 ……待ってられるか、莫迦!


 僕は、出て行くために苦労しているのに!

 ココロの中での叫びはもちろん口に出さず。

 廊下で、平木博士の携帯が繋がりません! なんて怒鳴っている声を聞いて、僕は首をすくめた。

 九谷の野郎、本当にオリヱの携帯の電源を切りやがった!

 さすがに,オリヱに連絡を取られれば困る僕の正体は、バレなくて良かったけれど。

 もう、二人は色々と始めているのかもしれなかった。

 こんなところで、のんびりしているヒマは、ない!

 僕は、ぼんやり突っ立っている武蔵川に怒鳴った。


「早く、靴と、ズボンと上着を出せ!

 腰なんぞ、痛くないんだから、少し休めば、すぐ直る!」


「は、はいっ!」


 あとでよくよく考えれば、僕の言い方は、変だったけれども。

 このとき、武蔵川は、僕の迫力に負けたのか、九谷のロッカーから適当な服を持って来た。

 研究員っていうのは、泊りがけの仕事も珍しくないようで。

 服は一式すぐに揃ったけれども、肝心な靴が無い。

 それでも、無いならいいやと、ぺたぺたと歩き出した裸足の僕を見かねて、武蔵川が言った。





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