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「どうしても、そんなシリアル番号みたいな名前にこだわるなら『シン』って呼ぶから」


「シン……! なんで、また!」


 僕の大嫌いな九谷のファーストネームの『真司』みたいで、すごくイヤだ。

 何も、ここまで来て名前まで、コピーする義理はない。

 別なのにしてくれ、と頼んだのに、彼女は笑った。


「『シックス・ナイン』の頭とお尻の文字を取って『シン』呼びやすくて良いじゃない」


「なんて勝手な!」


「別に。

 本名一つ、まともに教えてくれないんだから、呼び名なんて、どうでもいいでしよ。

 それに、吹雪が止んで、ここを下山出来たら、どうせ二度と、会わないだろうし」


 そりゃあ、な。

 住むところがかけ離れているし。

 僕だって、もし研究所に戻ったら、このヒトと会うこともないと思うけれど。

 やけにはっきりと断言した『もう、会わない』っていう彼女の言葉に、僕は首を傾けた。


「あんたこそ……名前はなんて言うんだ?

 そして、どうして……一人でこんな山にいるんだよ?」


 オリヱと九谷の話から察するに、クリスマスイヴから、その朝は大切な儀式か何かあるみたいで。

 女性が、こんな深い山に埋もれているのは、とても変だった。

 多分、怪訝そうになったはずの僕の表情に、彼女は、自嘲気味に、嗤った。


「わたしは、新庄 桜(しんじょう さくら)。

 レスキュー部隊、山岳警備部に所属の隊員よ」


「山岳警備部?」


 僕の辞書にはまだ、載っていない名前を聞けば。

 桜は、僕の鼻をツンツンとつついて言った。


「山で遭難しちゃったヒトを助けるのが、普段のお仕事。

 あ・な・た・みたいな、ね?」


「じゃあ、僕の捜索願いが出て……それで、来てくれたのか?」


「まさか。最初に言ったでしょう?

 ここ数日は、登山客なんて、いなかったし。

 ……天文台の職員が、川に転げて落ちた、なんて連絡もなかったわよ。

 わたしは、休暇で来たのに、思い切りお仕事しちゃったわ!」


「そ、それは、どうも。

 ……じゃ、休みの日に来るくらいなんだから、ここがよっぽど好きなんだな」





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