69
つぶやいた僕に、桜は眉を寄せた。
「前はともかく、今は山なんて大嫌い。
ここで、仕事も辞めるつもりだったし。
だから、シンは、わたしが最後に面倒を見る要救護者なの」
そう言った顔が、寂しそうで。
僕の胸がまた、どきん、と鳴った。
どうして、仕事を辞めてしまうのか。
好きだった山がキライになってしまったのか。
桜は聞かないで、とは言わなかったけれども。
僕は、何も聞けずに黙ってた。
重くなってしまった空気を吹き払うように、桜は笑う。
「この山で、トラブルが起こると、ここに集まりやすいとはいえ。
お互い出会えて、ラッキーだったわね。
シンは命拾いしたし、わたしだって……」
桜は、僕を眺めて、小さくため息をついた。
雪やけして黒い桜の顔は、弱さって言うモノが感じられなかったけれども。
息を吐く様子が、あまりに儚げで。
「桜……さん?」
心配になって声をかけた僕に、桜はクビを振った。
「何でもないわ。大丈夫。
わたし。あなたを呼び捨てにしてるから、あなたもそう呼んで?
とにかく、吹雪が止まないことには。
この山小屋から一歩も出られないから、そのつもりでいてね?
ま、明日には止んで、きっと下山出来るでしょ」
妖艶なオリヱとは、また違う。
力強い桜の言葉に圧倒されて、僕はうん、とうなづくしかなく……
そんな僕を見て、桜は、また笑った。
「さっきまで、低体温症寸前で参っていたから、元気なんてないと思うけど、シン。
良からぬコトをしたら、思い切り殴らせてもらうからね?」
わたし、実は合気道二段で……なんて。
手をにぎにぎしている桜に、僕はクビを引っこめた。
「……しません。僕には、好きなヒト、いるし」
そう。
オリヱは、もう僕が居なくなったことは、知ったろうか?
そして、探しているんだろうか。
僕は、そっと布団を被り、そのまま自分の膝を、抱いた。
「前はともかく、今は山なんて大嫌い。
ここで、仕事も辞めるつもりだったし。
だから、シンは、わたしが最後に面倒を見る要救護者なの」
そう言った顔が、寂しそうで。
僕の胸がまた、どきん、と鳴った。
どうして、仕事を辞めてしまうのか。
好きだった山がキライになってしまったのか。
桜は聞かないで、とは言わなかったけれども。
僕は、何も聞けずに黙ってた。
重くなってしまった空気を吹き払うように、桜は笑う。
「この山で、トラブルが起こると、ここに集まりやすいとはいえ。
お互い出会えて、ラッキーだったわね。
シンは命拾いしたし、わたしだって……」
桜は、僕を眺めて、小さくため息をついた。
雪やけして黒い桜の顔は、弱さって言うモノが感じられなかったけれども。
息を吐く様子が、あまりに儚げで。
「桜……さん?」
心配になって声をかけた僕に、桜はクビを振った。
「何でもないわ。大丈夫。
わたし。あなたを呼び捨てにしてるから、あなたもそう呼んで?
とにかく、吹雪が止まないことには。
この山小屋から一歩も出られないから、そのつもりでいてね?
ま、明日には止んで、きっと下山出来るでしょ」
妖艶なオリヱとは、また違う。
力強い桜の言葉に圧倒されて、僕はうん、とうなづくしかなく……
そんな僕を見て、桜は、また笑った。
「さっきまで、低体温症寸前で参っていたから、元気なんてないと思うけど、シン。
良からぬコトをしたら、思い切り殴らせてもらうからね?」
わたし、実は合気道二段で……なんて。
手をにぎにぎしている桜に、僕はクビを引っこめた。
「……しません。僕には、好きなヒト、いるし」
そう。
オリヱは、もう僕が居なくなったことは、知ったろうか?
そして、探しているんだろうか。
僕は、そっと布団を被り、そのまま自分の膝を、抱いた。