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ベッドの中の楽園
 


「信じられない……!

 なんで、あのタイミングで、抱かないのかしら!」


 次の朝。

 吹雪の止む気配さえない山の小屋。

 僕の腕の中で、裸のままの彼女が言った。




「あれからずっと抱き続けているじゃないか。

 お姫様は、何が不満?」


 そんな風に、僕は真面目に言ったのに。

 どうやら、一晩中身を堅くしてたらしい。

 桜は、変な緊張感を振り払い……却って笑いながら言った。


「これ、は『抱きしめてる』んであって『抱く』んじゃないわよね?

 こんな風に、裸のわたしをずっと抱きしめながら、おあずけ、なんて……

 わたし、相当、魅力無いのかな?

 それとも。

 あなたの『モノ』が役たたずなのかしら?」


「桜は、魅力的だよ」


 雪やけした、浅黒い肌の顔も。

 あまり胸が無くとも、細く、しなやかな筋肉で被われたカラダも。

 僕は、キレイだと思うし、抱きしめごこちも良い。

 そして、多分。

 オリヱのプログラムを掘り起こせば。

 僕は、桜を人間の男と変わりなく抱けるはずだった。

 それをしなかったのは、別に。

 はじめてで自信なかったからでは、ない。


「だって、桜は……本当は。

 シたくなかったんだろ?

 死ぬ、とか言ってカラダを無闇に傷つけちゃダメだよ。

 それに。

 僕は、桜を暖めたかっただけだから」


 細く……ココロの痛みに震えるように泣く君を。

 抱きしめてみたかっただけだから。

 そんな、僕の手を、桜はぎゅっと胸に抱いて、言った。


「シンって、優しいのね……

 こんなヒト、はじめてよ」


「優しくなんてないよ。

 それに……ヒトじゃないし」


 そう、僕は軍事用だから。

 場合によっては、ヒトを傷つけ、殺しても良いと、リミッターの外された怪物だ。

 基本は、オリヱ基準値にしか、良心がなく。

 暴力行為にも、禁忌の無い、ただのアンドロイドだ。

 だけども。

 それを信じない桜は、無邪気に笑う。


「やぁね。

 アンドロイドなんて、まだ言ってる~~」

 
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