69
機嫌良く返す僕に抱きついて、桜が、聞いた。
「ねぇ。吹雪が止んで……この山を降りても……また、会えるよね?
毎日は無理でも。
お休みの日は、こうやって。
……どっちかの家のベッドの上で、過ごせるよね?」
「そうだね」
この山を降りたなら、多分。
……僕は、二度と桜と会うことは無いだろう。
僕には、彼女が思い描ている、家も部屋もないし。
好きに研究所の外に出かける権利も、自由もない。
それに、もしかしたら。
勝手に逃げ出した罪で、先に待っているのは……死。
全機能停止や、下手をすると、解体処分かもしれなかった。
そんな事実が悲しくて。
僕は、生まれて二度目のウソをつく。
「休みの日になったら。
美味いお菓子と花束を持って、桜の家に遊びに行くよ」
「花束! わたしのガラじゃないわねぇ。
でも、お菓子は、良いかも」
僕の言葉に、桜は楽しそうに笑う。
「今なら、チョコケーキが、丸ごと一ホール食べられそう」
食事のまともにとれない桜は、日に日に弱り、痩せてゆく。
僕には、靴が無く。
裸足で雪山を歩き続けるのは、さすがに無理なことを考えると。
桜が助かるには、救助隊を待つか、自力で下山するしか方法が無い。
だけども。
自ら、命を絶つつもりで、誰にも行き先を告げずに、この深い山の真ん中まで来た桜には。
彼女が生きているうちに、救助隊が探しに来るとは、思えなかった。
人間の居る場所まで、桜は、自分の足で帰れるのだろか……
僕に搭載された、GPSは桜が歩かなくてはいけない距離を計測し。
摂取カロリーと消費カロリーのバランスを考えると。
自力で下山出来る限界点が、冷酷にも思えるほど正確に弾き出される。
その日は。
「明日……か」
思わず、つぶやいた僕に。
何も知らない桜が、いっそ無邪気に聞き返した。
「明日がなあに?」
「いや、明日こそは、吹雪が止むといいなぁ……って」
でないと、桜が生きて山を降りられない。
「ねぇ。吹雪が止んで……この山を降りても……また、会えるよね?
毎日は無理でも。
お休みの日は、こうやって。
……どっちかの家のベッドの上で、過ごせるよね?」
「そうだね」
この山を降りたなら、多分。
……僕は、二度と桜と会うことは無いだろう。
僕には、彼女が思い描ている、家も部屋もないし。
好きに研究所の外に出かける権利も、自由もない。
それに、もしかしたら。
勝手に逃げ出した罪で、先に待っているのは……死。
全機能停止や、下手をすると、解体処分かもしれなかった。
そんな事実が悲しくて。
僕は、生まれて二度目のウソをつく。
「休みの日になったら。
美味いお菓子と花束を持って、桜の家に遊びに行くよ」
「花束! わたしのガラじゃないわねぇ。
でも、お菓子は、良いかも」
僕の言葉に、桜は楽しそうに笑う。
「今なら、チョコケーキが、丸ごと一ホール食べられそう」
食事のまともにとれない桜は、日に日に弱り、痩せてゆく。
僕には、靴が無く。
裸足で雪山を歩き続けるのは、さすがに無理なことを考えると。
桜が助かるには、救助隊を待つか、自力で下山するしか方法が無い。
だけども。
自ら、命を絶つつもりで、誰にも行き先を告げずに、この深い山の真ん中まで来た桜には。
彼女が生きているうちに、救助隊が探しに来るとは、思えなかった。
人間の居る場所まで、桜は、自分の足で帰れるのだろか……
僕に搭載された、GPSは桜が歩かなくてはいけない距離を計測し。
摂取カロリーと消費カロリーのバランスを考えると。
自力で下山出来る限界点が、冷酷にも思えるほど正確に弾き出される。
その日は。
「明日……か」
思わず、つぶやいた僕に。
何も知らない桜が、いっそ無邪気に聞き返した。
「明日がなあに?」
「いや、明日こそは、吹雪が止むといいなぁ……って」
でないと、桜が生きて山を降りられない。