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「シ………ン。

 シックス・ナイン!」


 懐かしい声に。

 痛みに痺れた目蓋を開けば、怒った、見慣れた顔があった。

「オリヱ。僕は……」


 僕のかすれる声に、彼女は、僕に繋がったPCのキーを叩きながら、頬を膨らませた。


「ここは、緊急退避用の山小屋の中。

 あなたは、自己崩壊システムのせいで、今動いているのは、頭部だけなのよ!

 あたしが来たからって、失われたカラダの修復は出来ないし、残った機能も維持は難しいわ。

 あなたは……死ぬのよ?」


「……判ってる」


 それは、修復不可能な死の呪文。

 一度スイッチを入れたら、制作者でも、止められないのは、判ってる。


「シックス・ナイン。

 あなたは、もう少しで完全に壊れてしまうわ。

 どうせ、自己崩壊をするにでも。

 末梢からでなく、中枢から始めれば、痛みを感じずに、機能停止するのに、莫迦な子ねっ!」


 そんな、オリヱの泣き笑いみたいな顔に、僕も、ふふふ……と息をつく。


「中枢からやったら……オリヱと……最後の話が出来ないだろ?

 すぐ来ると思って……待って、いたんだ。

 僕が抱きしめてた娘(こ)は……?」


「生きているわよ!

 だいぶ衰弱していて眠っているから、回復するのに、時間がかかるとは、思うけど。

 今、真司が、あたし達が乗って来たヘリコプターに、回収している最中だわ」


 そうか、良かった、と。

 溜め息をつく間もなく。

 その九谷本人が、足音高くやって来た。


「この逃亡野郎のおかげで、とんだ元旦だぜ。

 なんだ……まだ、動いているんだ?」


 字面よりは、だいぶ心配そうに聞こえるのは、僕の気のせいだろうか。


 九谷の言葉に、僕は、小さく、笑った。


「悪かったな。

 九谷……博士。

 僕は、あんたと交渉したくて……

 ……今を生きてるんだ」


「……交渉?

 もうすぐ完全にポンコツになるお前とか?」


 何を莫迦な、と。

 怪訝な顔の九谷に、僕は、なるべく不敵に見えるように、微笑んだ。

 
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