69
「九谷博士には……僕の最後の願いを……聞いて、欲しいんだ。

 無事に下山出来たら……僕が、抱きしめてた桜に……

『シックス・ナイン』として、会って欲しい」


「……は?

 寝ぼけたことを言うんじゃねぇ!

 何で、オレが、お前の代わりなんか演(や)らなけりゃなんねぇんだよ!」


 不機嫌な九谷をなるべくしっかりと見つめて、僕は言った。


「僕は、桜に……前の恋人と同じ、ここで死んだ、と知られたく無いんだ。

 桜と一緒に下山して……どこかで生きていると思われたい。

 ……一度でいい。

 出会った瞬間に……別れてもいい。

 だから、九谷博士に……僕の代わりをして欲しい……んだ」


「オレは、こう見えてもオリヱちゃん一筋なんだ。

 誤解の元になりそうな、汚れ仕事を、ただ、引き受けるつもりになるかっつーの!」


「何も……ただで久谷博士に面倒を押し付けようとは言わない……さ」


 譲りそうにない久谷に、僕は、なんとか笑う。


「僕は、この数日、ずっと桜と愛しあってた……その記憶(メモリー)が欲しく無い?」


「けっ!

 誰が他人の。しかも、アンドロイドの セックスが見たいんだ!

 オリヱちゃんがいるし、オレは、そこまで飢えてねぇよ!」


「ふふん……あんたが、直接……使うんじゃないさ。

 これが、あれば、オリヱは、二度と、機械に抱かれなくてもいいと思わない……?」


「シックス・ナイン!」


 その言葉に久谷が初めて、僕を真剣に見た。


「オリヱのプログラムのうち……

 女の子の肌を傷つけなくて良いヤツは……全部試した。

 だから……データ的には……もう、オリヱは必要無いはずだ。

 久谷博士が、僕の願いを聞いてくれるなら……このメモリーを、素直に渡すけど……

 聞いてくれないなら……壊れていく。

 僕と一緒に、消去するよ……良い?」




 
< 40 / 49 >

この作品をシェア

pagetop