69
「ウソ……! なんて、こと!」
とうとう叫んだ彼女に、僕は、ほほ笑んだ。
「カラダは、救難信号と引きかえに失われ。
あなたと出会った時の、それ。ではないですが。僕の記憶は……ココロは。
あの時のままですよ。
ヘリポートで、あなたの姿を見たとき。
今までの生活では、凍結していた記憶が一気に戻って来ました。
仕事で来たので、チョコレートケーキは、持参してませんが……」
「シン……! シックス・ナイン!」
彼女の厳しかった表情は、涙に溶けて。
今は、仕事中であるコトや、側に武蔵川がいるコトをすっかり忘れて、彼女は僕の胸に、飛び込み、泣き崩れた。
九谷は、あのときの約束を違えず、彼女の命をつないでくれたのだろう。
だけども。
アイツが好きなのは、オリヱしかいないから。
彼女は、手ひどく振られたに違いない。
それは、判っていたこと。
だけども今度は。
本物の僕が、彼女の側に、正式に居れる。
本当に、守ってやれる。
ココロも、カラダも……!
僕も半分、泣きそうになりながら、彼女を一度、ぎゅっと抱きしめ、そのカラダを放すと。
所在無げに、呆然と立ち尽くしている武蔵川に、にこっと笑って、事前に教えられた敬礼をする。
「僕の名前は『セイ』。
本日付を持って、この部隊に実習生として着任します。
今後とも、よろしくお願いします」
そんな僕に、彼女も涙を払うと、敬礼を返した。
「私は、レスキュー部隊、山岳警備部部長、兼、教官を務めている、新庄 桜だ。
あなたの入隊を歓迎する……!」
そのとき。
山小屋に閉じ込められた日々の間、ずっと吹き荒れてたような風が一瞬。
深山のふもとにある、山岳警備部の本営上空を通り過ぎて行ったようだった。
けれども、今は、新年度の始まり、春の盛り。
山々には、雪のような桜が咲き乱れているだけで、とても暖かかった。
窓の外で桜吹雪が舞い散るのを見ながら。
二人の影が、そっと、寄り添った。
〈了〉
H22.12.21.17:45
とうとう叫んだ彼女に、僕は、ほほ笑んだ。
「カラダは、救難信号と引きかえに失われ。
あなたと出会った時の、それ。ではないですが。僕の記憶は……ココロは。
あの時のままですよ。
ヘリポートで、あなたの姿を見たとき。
今までの生活では、凍結していた記憶が一気に戻って来ました。
仕事で来たので、チョコレートケーキは、持参してませんが……」
「シン……! シックス・ナイン!」
彼女の厳しかった表情は、涙に溶けて。
今は、仕事中であるコトや、側に武蔵川がいるコトをすっかり忘れて、彼女は僕の胸に、飛び込み、泣き崩れた。
九谷は、あのときの約束を違えず、彼女の命をつないでくれたのだろう。
だけども。
アイツが好きなのは、オリヱしかいないから。
彼女は、手ひどく振られたに違いない。
それは、判っていたこと。
だけども今度は。
本物の僕が、彼女の側に、正式に居れる。
本当に、守ってやれる。
ココロも、カラダも……!
僕も半分、泣きそうになりながら、彼女を一度、ぎゅっと抱きしめ、そのカラダを放すと。
所在無げに、呆然と立ち尽くしている武蔵川に、にこっと笑って、事前に教えられた敬礼をする。
「僕の名前は『セイ』。
本日付を持って、この部隊に実習生として着任します。
今後とも、よろしくお願いします」
そんな僕に、彼女も涙を払うと、敬礼を返した。
「私は、レスキュー部隊、山岳警備部部長、兼、教官を務めている、新庄 桜だ。
あなたの入隊を歓迎する……!」
そのとき。
山小屋に閉じ込められた日々の間、ずっと吹き荒れてたような風が一瞬。
深山のふもとにある、山岳警備部の本営上空を通り過ぎて行ったようだった。
けれども、今は、新年度の始まり、春の盛り。
山々には、雪のような桜が咲き乱れているだけで、とても暖かかった。
窓の外で桜吹雪が舞い散るのを見ながら。
二人の影が、そっと、寄り添った。
〈了〉
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