河童沼ロマンティック
おじいちゃんが亡くなってから、その古い家は空き家になり、暑い夏の避暑の場となりました。
庭の大きな木は影を作り、きらきらした木漏れ日を届けてくれます。
窓を開けると、風が古い黴の匂いを立ち上げる。
その夏の日、父と私は掃除を済ませ、夜中にやって来るはずの母を待っていました。
私は夕げの支度をしながら、明日からの友人とのドライブ旅行を思い描き、父に話しかけられても上の空でした。
そして西陽が部屋中を橙色に染める頃、あの人はやって来ました。
がらんごろんと鳴る古いチャイムの音に、我に返り玄関の扉を開けると、あの人が立っていたのです。
「こんにちは」
日灼けした笑顔が印象的な男の人でした。
「こんにちは」
「緋央さんですよね?僕、川原といいます。明日からの旅行に混ぜてもらうことになって」
「え?」
私はとりあえず川原さんを客間に通し、友人の美香に電話をかけました。
3人で行くはずだったドライブ旅行の人数が増え、6人になったとのことでした。
「川原って人は拓ちゃんの友達なの。丁度そっちの方にいるって言うから、私が紹介したのよ。いけなかった?」
美香は悪びれた様子もなく言いました。
「そこ、広いし、どうせ明日から一緒なんだもの。一晩、泊めてあげてね」
胃が重くなりそうでした。