河童沼ロマンティック
川原さんをお風呂に案内してから、お二階の客室に布団を整えます。
昼間お日様に当てておいたお布団は、柔らかさを取り戻しふかふかであったかい。
もしかしたら眠る時に熱い程かもしれません。
お台所で洗い物をしていると、お湯を終えた川原さんが入って来ました。
「手伝おうか」
おじいちゃんの家のお台所は、昔の土間のままです。
「お客様なのに、こんなところまで」
川原さんの連れてきた湿度が立ち上げる土の匂いに、むせそうになりながら私は言いました。
「大丈夫。川原さん、もう休んで」
それなのに川原さんは私の横に立ち、洗い終えたお皿やグラスを麻のクロスで拭き始めました。
「一緒にやった方が早い」
横に立った川原さんからはシャンプーの匂いがしました。
いつも私が使ってるシャンプーの匂い。
それなのに私は、初めての香りに出会ったみたいにどきどきしていたのです。
「お皿もきれいになった?」
「え?」
「頭の上のお皿」
苦し紛れに言ってみたその言葉に、なんとなく空気が緩んだのを感じました。
「実はさ、魔法をかけられて河童にされてたんだ」
「え?」
「運命の人に出会うまで、魔法は解けなかったんだよ」
「‥出会ったの?」
「なんてね」
ちらりと窺うと、川原さんは楽しそうな笑顔をしています。
私達は静かなお喋りとくすくす笑いで作業をし、ふたりでするそれは、やっぱり川原さんが言うように早かった。
「川原さん、ありがとう」
私達は薄暗い階段の下でおやすみを言って別れました。