空に手が届きそうだ
一度、シャッターを切ったら止まらなかった。

「少し目線外して。」
良子が、指示を飛ばす。
さっきとは少し違う緊張感。

まるで、今を切り取るようにシャッターを切ってはカメラを見る。
(大丈夫。)

「次、こっちに立って」

風花は、言われた通りに移動して立つとカシャッと音がするたびに違う顔をする。

それは、一瞬だった。
はりつめていた空気を柔らかく包むように微笑んだ。

太陽の向きを考えて、良子は近づいたり遠ざかったりして次々にシャッターを下ろす。

そのたびに変わる空気と、雰囲気。

同じ服で、同じ顔で、同じ場所で撮っているはずなのに何処か違う素振りをみせる。

(これが、人に魅せるための写真。)

ちょっとした、仕草に大人の顔が除く。

「顔、上げて」
カシャッと音がする。
「風花、泣ける?」

無茶な質問だが、良子の目は真剣そのもの。
小さく頷いて、“泣く”

ファインダー越しの風花は、泣いている。

涙を溢さずに、表情だけで悲しみを表現していた。

ふいに、周りが五月蝿くなる。
集中して見ていた為、時間を見るのを忘れていた。
「良子、時間!!!!」
背中に叫ぶと、残念そうに最後に笑ってと言った。

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