空に手が届きそうだ
「ただいま。」
ぎぃっと音がして、純一郎が入ってくる。
「おかえり。」
なるべく、明るく返した。
「優、俺に何か言う事無い?」
「何を?」
確か、言ったはず。
「学校、やめるって」
「………。言ってなかったっけ?」
「聞いてない。」
「ごめん」
持ちかけた鞄を、また机に下ろす。
「深さんは、知ってんの?」
「今日、話す。」
「そっか。」
開けっ放しの、扉。
「話し、丸聞こえですけど~?」
部屋に、声だけ入れて手を振る流。
「流ちゃん……。」
茶目っ気たっぷりの流を見て、少し心が軽くなる。
「帰ろっか。」
「うん。」
二人は、ほんの少し名残惜しそうに、荷物を持ってその部屋を出た。
「忘れ物無い?」
「大丈夫……。」
もう一度、部屋を覗いて頷いた。
「鍵、開けとけ~。」
何処からともなくした声は、紛れもなく日下部の声。
静かに、優が扉を閉めた。
「流ちゃん、鍵は~?」
手に持っていた鍵を鳴らす。
それに釣られるようにひょこっと、事務室から姿を表した。
「あ~。やっぱ閉めといって」
手には、さっき閉じたばかりの資料。
「なんだよ。」
仕方なく、純一郎は扉を閉めた。
流ちゃん鍵……。と差し出したが、上の空。
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