空に手が届きそうだ
「頑張ってくる。」
ゆっくり、一歩踏み出す背中に頑張れの言葉が後押しする。
優は、くるりと振り返った。
「行ってきます」
ぴっと敬礼した。
「「「「行ってらっしゃーい」」」」」
口々に、こぼれ落ちる言葉が心に染みる。
バイバイ、と手を振って急いで靴を履き替えた。
「優、負けんなよ。」
「わかってる。」
純一郎の言葉に、ブイサインをして皆に背中を向けた。
(勝負。)
こんなに、緊張した事は今まで無い。
ゆっくり、近づいて隣に立つ。
「深さん?」
返事は、無い。
黙って顔を覗き込めば、見つめられた。
「遅かったね。待ちくたびれちゃった。」
「ごめんなさい。」
「いいよ。今日は、僕の家だから。」
「えっ!?」
驚く優からすんなり鞄をさらうと、車回してくるからねと言った。
「どしたの、優?」
すっかり靴を履き替えた風花を先頭に、次々と皆が玄関から出てきた。
「今日、深さん家だって。」
「えっ、」
「深さんは?」
「車、取ってくるって」
「そっか。」
とりあえず、行こうと怜が立ち尽くしている優に声をかける。
「優、大丈夫か?」
「うん、ちょっとびっくりしただけだから。」
不安な気持ちをかき消すように、笑ってみせる。
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