空に手が届きそうだ
手を繋いで、マンションに入る。
朝とは、違う感じのする階段を登る。
「何階だった?」
「三階の、305。」
エレベーターも無い、古びたマンションは少し何かが化けて出そうな気がする。
「大丈夫か?」
「あんまり、この時間に帰って来ないからちょっと、怖い。」
ゆっくり、手をひいた。
「今も、これからもずっと一緒だ。」
繋がれた手が熱い。
「鍵開けるぞ。」
「うん、」
ポケットから、スペアキーをだす。
と、一瞬俯く優を見て目の前に鍵を差し出した。
「へっ?」
「開けて。照らすから」
「うん、」
明かりの無い、暗闇に深は携帯で優しく照らした。
「ありがと。」
ガチャリ、と開いた扉。
「ただいま。」
どこか、懐かしい気がする。
すぐに、玄関の電気を付けた。
「鍵、閉めとくな。」
「うん。」
入り口に、差したままの鍵を抜いて深は中に入った。
念のため、二重ロックをする。
「ごめん、汚くて」
少し先の部屋で、布団が引けるように片付けをする。
「いいよ。慣れてるから」
いつも、そうだ。
深は、優しい。
「洗濯物も、ありがとう。」
丁寧に、畳んである洋服。その、心使いが嬉しかった。
「いいよ。いつもの事だから。」
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