三日月少年少女
 ふと、さっき少年からもらったチョコレートを僕は眺めた。よく見ていると赤いリボンに文字が書いてある。

「”三日月…サーカス”?ねぇ、このチョコレートお母さんが作ってくれたって言ったね。君のお家はサーカスなの?」
「うん、そうだよ。三日月がよく見える丘の上にあるからってパパが言ってた、今日も夜にショーがあるんだ」
「そういう大切なことは早く言わなきゃダメだよ!」
「ごめんなさい」
 少年は僕に怒られたと思って身体を小さくした。
「大きな声を出してごめんね、でもこれでおうちが見つけやすくなったよ」
「本当!」

 そんなやりとりとしていると、ゆりあさんがお土産を持って戻って来た。隣にはゆりあさんそっくりな五つ子の次女、まりあさんが明らかに迷惑そうな面持ちで立っていた。

「まりあ姉さま、出番です!」

 ゆりあさんはそう言いながら、まりあさんの背中をぐいぐい押している。

「ゆりあ、なんなの?私まだ仕事中なんだけど、」
「このカボチャくんがね、迷子なんだって。迷子の世話はまりあの十八番でしょ」
「私をお手軽な迷子預かり所みたいに言わないでくれる?」
 
 けれど、まりあさんにかかればそこらへんの交番に駆け込むより迷子の救出率は高いと思う。彼女は地理好きという趣味が高じて、この町の地理はもちろんここ五十年前のことまで全て知り尽くしているのだ。

「まりあさん、三日月サーカスって知ってる?」

 僕はそのサーカスがわかれば迷子は一件落着、まりあさんなら当然知っていると期待していたので、すっかり安心しきっていた。
 
「知っているわよ、でも、そのサーカスはたしか二年前に閉めてなくなったと思うけど、」  


 こうして、また迷子事件はぼくらの頭を抱えさせることとなるのであった。

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