三日月少年少女

 確か、ぼくはあのハロウィンの夜も三日月サーカスにいたんだ。なにか大切なことを忘れている気がする。



「どうしよう、ふたりともどこにいるんだろう」

「どうしたの?みちにまよっちゃったの?ぼく、サーカスのことなんでもしってるよ」

 その晩、一緒に来たパパとまりあ姉ちゃんとはぐれてしまったぼくは人ごみの中で立ち尽くしていた。そんな時に、ハロウィンの仮装をしたカボチャ頭の少年と出会った。その子とぼくは同い年くらいだったせいか、すぐに仲良くなった。
 その子はサーカスに住んでいて、小さい頃からショーにでているらしい。

「ぼくずっとサーカスのなかにいたから、同い年のともだちがいないんだ。はじめての友達になってくれる?」

「もちろん、ぼくもサーカスに友達がいるなんてはじめてだ!」

 そう言ってぼくらはお互い笑った。

 その夜、少年が欠員した団員のかわりにサーカスにでるというので、ぼくはいつにも増して食い入るようにサーカスの舞台に見入っていた。動物の曲芸やピエロのおもしろおかしいショーのあと、その時はやってきた。

 それはガラス張りの天井を開いて、きらめく星空の中で空を舞うショー。空に向かってそびえたつ梯子の先には小さい男の子が華やかな衣装を着て立っている。

「《お待たせいたしました。三日月サーカス目玉のショー、空中ブランコ。本日は三日月サーカスの一人息子がデビュー致します》」

 サーカスの団長と思える男性が少年を紹介すると、観客席から拍手や歓声が飛んだ。ぼくは息をのんでショーを見守った。

 彼はブランコに手をかけると勢いよく空に飛び出した。けれど、ちょうど夜空に流れ星が見えた時だった。宙を舞い遠心力でバランスを崩したのか、ブランコから離れてしまった彼はまっさかさまに落ちていった。

「あ!」

 ぼくは思わず小さな叫び声をあげて顔を手で覆っていた。
< 12 / 13 >

この作品をシェア

pagetop