三日月少年少女
「ところで、良い男の見分け方って知ってる?」まりあさんは腰を屈め、僕に耳打ちした。

 何故ここで良い男の見分け方?
 だいたい、僕にわかる訳ない。

「お金持ちとか、優しいとか……?」

「話して心地よい声かどうか、よ。いくらお金持ちでも、器量がよくても、一緒にいて安らがないなら、その人にとっては良い男とは言えない訳。いくら、回りが良い人って言っ
てもね」

「たしかに、そうかも……」

「少年の将来にしてもね、立派な肩書きのある職業につくのが正しいとも限らないのよ。自分で正しいと感じるものを選ぶしかないの。手助けは出来るけれどね」

 まりあさんはにっこり笑った。


「さっき、僕の将来を占ってもらったんです。同じ学校の占い少女に」

 僕は目の前のココアの入ったカップに触れながら言った。

「うん?アリエちゃんだっけ?」

「はい、あたしに聞くな、って怒られちゃいました」

「まぁ、ね。人間って誰かに決めてもらうと安心なのよね」

 まりあさんは思い当たるふしがあるのか、ゆっくり頷いた。

「去り際、不機嫌そうに、“あなたは将来、必ず死にます”って言われました」

「確かにっ……」

 まりあさんは思い切り笑いを堪えている。

「じゃあ、それまでになんとかしなきゃね」

 僕は笑顔を作りながら頷いた。



 三十分後、僕が席を離れ会計にカウンターの前に立った。お釣を僕の手に落としながらウェイトレスが僕に話しかけてきた。

「道案内はお姉さんの得意分野だけどね。目的地がなきゃ出来ないの」


「君が行きたいのは何処なのか。それがまず、問題」


――僕が行きたい場所。

 僕にしかわからない素敵な場所。それを、探していかなきゃいけないんだ。

「そうですね」

 僕は笑顔で大きく頷くと、軽い足取りで街中へかけていった。
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