三日月少年少女
「ふんふん、なるほど今年はオオカミ少年か」

 僕の背後からそんな声が聞こえた。

「パパ!」

 実はこのカフェは僕のパパが経営している。そんな訳で、僕はおなかがすくとここに駆け込んでいる。

「オオカミ少年っていうと、僕がまるで嘘つきみたいじゃないか」

 口を尖らせながらとっさに抗議するとパパはにやにやしながらあるテーブルを指差した。

「嘘つきじゃないか、あんな可愛いガールフレンドがいるのを黙っていた」

 その先を見ると、目の前にケーキの皿をずらーと並べていつになく目をキラキラさせて満足そうにしているアリエちゃんの姿があった。ケーキを前に生き生きしているアリエちゃんは確かに可愛い。

「パパには関係ないじゃないか、パパはお客さんの相手してなよぅ」

 僕は真っ赤になって意地を張ってしまった。

「はいはい、少年頑張れよ。魔女は手ごわいぞ」

 そう言って、パパは楽しそうに鼻歌を歌いながらカウンターの奥に消えていった。

 パパが完全に見えなくなるのを確認すると、僕はアリエちゃんのテーブルを見た。ケーキを一生懸命にほおばるアリエちゃんの笑顔は僕に優しい気持ちをくれる。けれど、それは僕と話しているときには絶対見せてくれない顔だ。パパの言うとおり、僕はすごく難しい女の子を好きになってしまったみたいだ。
 ケーキ好きな魔女のテリトリー内に入るにはどうしたらいいのだろう?
 そんなことを思いながら、僕は彼女がいるテーブルに腰かけた。
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