三日月少年少女
「ハルちゃん、おなかいっぱい」

 ハルというのは僕の名前だ。
 アリエちゃんは僕にそう言うと、にっこり笑った。アリエちゃんは甘いものでお腹いっぱいじゃないと無口だったり無気力だったりする。なので、アリエちゃんとお話したい時は甘いものが必需品だ。こうして、食べ終わったケーキのお皿を積み上げて満足そうににこにこしている様子を見ていると普通のかわいらしい女の子なんだけどなぁ。そんなことを思いながら、ココアを飲んでいるとひとつの視線を感じた。

 僕たちのテーブルの横で小さなカボチャ頭が左右に揺れている。身長から五、六歳くらいだろうか。手にはハローウィンの戦利品だろう、飴やチョコレートが入れられたバスケットをしっかり握っていた。僕に見られているのに気づいたのか、そのカボチャ頭は小さい手に飴をつかむと僕に差し出した。

「どれくらいあったらぼくのことうらなってくれる?おねえちゃんうらないしなんでしょ?」

 アリエちゃんは自分の話題だというのに、今度はビスケットをかじることに必死みたいだ。

「占う?」

「うん、ぼくみちにまよっちゃったんだ、とちゅうまでみんなといっしょだったのに…」

 みんなっていうのは、きっと友達のことなんだろう。そう言うと、その子はカボチャ頭の中で声を響かせながら「おうちにかえりたいよ」と泣きだしてしまった。

「おうちはどこなの?」

「おほしさまがいっぱいふってくるとこだよ。ぼく、おおきくなったらおおきいブランコでおそらをとぶんだ。さっきからいってるのに、…だれもしらないっていうんだ」

 そう言うと、その子は我慢の限界だったのか、大きい声で泣きはじめてしまった。
 そこでようやくアリエちゃんは迷子に気づいたらしく、ビスケットを食べる手を止め僕らをじっと見つめた。
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