鏡の中の僕に、花束を・・・
右手を離す。そして、一気にレバーを<大>方向に回した。離した途端に、鼻先が水についた。駄目なのだろうか。僕は瞼を閉じた。恐怖を見続けるだけの心の強さを持ち合わせていなかったからだ。
「ん?」
体が軽くなった。
「流れてる?」
賭けに勝った。奴は泡となり消えて行った。しかし、泡が消えればまた復活するはずだ。そう感じた僕はトイレを出た。
ベルトは、きちんと止まっていなかった。

「まさか、水にまで・・・。」
奴はありとあらゆる物から現れる。どうやって全てを防げばいいのか、考えもつかない。
「・・・。」
時計を見た。まだ、母親は夜勤の最中だ。しばらくは帰って来ない。それにいい歳して、母親に帰って来てと電話でもするのか。それはあり得ない。だいたい、母親が帰って来たところで、奴をどうにか出来るとは思えない。
なら、警察はどうだ?無理だ。なんて言えばいいのだ?自分が殺しに来ると言うのか?鏡の中から出て殺しに来ると言うのか?あり得ない。頭が変だと思われるだけだ。
「どうしたらいいんだよ!」
叫んだ。叫んでもどうにもならないと、わかっていても叫ぶしかなかった。
< 14 / 84 >

この作品をシェア

pagetop