鏡の中の僕に、花束を・・・
6
その頃、僕も暗闇にいた。自分が目を開けているのか、それとも閉じているのか、まるでわからない。深い深い闇だ。
「これなら、大丈夫だろ?」
そうだ、僕は頭がいい。様々な物が見えなくなれば、何かに僕が映る事はない。いちいち細かい物にまで気を回さなくてもいい。
自分の部屋は汚くて、明かりがない状態で篭るのは難しいから、リビングの雨戸をガムテープで塞ぎ、光が外から入らないようにした。映り込むテーブルを警戒して電気を消し、懐中電灯を使って作業をした。何もかも完璧だ。
あとは耐えるだけ。体育座りをして、ただ一点を、暗闇の中に決めた一点を見つめていた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
奴が来ないのはわかっている。それでも、こんな暗闇の中で、一人何もしないでいるのは辛い。呼吸が荒くなるのもしょうがないのだろう。
チッ、チッ、チッ・・・。
なんで、こう言う時は時計の秒針はうるさいのだ。何か責め立てられている感覚になる。勘弁して欲しい。
「壊しておけば良かった。」
そうは言うが、実際には無理だっただろう。時計の硝子に僕が映る。そしたらお終いだ。
長い。一秒が長く感じる。もしかしたら、世界はゆっくりと回り出したのかもしれない。いや、もしかしたら止まってしまったのかもしれない。そう思わせるほど、秒針の音が遅く感じる。焦れた。
「なんだ?!」
少しの物音にも反応してしまう。しかし、実際には大した音ではない。風が雨戸に吹きつけた音だったり、救急車のサイレンだったり、日常でよく聞く音だ。それでも今の僕には怖かった。怖いからビクビクし、神経をすり減らす。
「つ、疲れた。」
張り詰める神経はどこまで持つのだろう。そんな事を考えているうちに、僕は眠ってしまった。
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