鏡の中の僕に、花束を・・・
7
「千代田さん、ちょっといい?」
母親は同僚の看護士に、声をかけられた。ちょうど同い年くらいの看護士、山下だ。ただ、その容姿は母親より老けて見えた。
「何?」
「お宅の息子さん、就職先探してたでしょ?あれ、見つかった?」
母親は少し間を置いてから言った。
「ううん、まだ。」
「そう、良かった。」
山下は笑った。母親はムッとした。それを見て、慌てて訂正した。
「ち、違うのよ。私の知り合いでね、会社を手伝ってくれる人を探している人がいるのよ。その人にね、息子さんの話をしたら興味を持ってくれたみたいで。」
「興味を持ったって?あの子が自慢出来る事なんか・・・。」
山下に話した事を思い出す。が、何も思い当たらない。ただ、そう言いながらも、母親はうれしそうだった。
「ほら、前に見せてくれたじゃない。おもちゃの写真。あれよ。」
息子が昔作ったプラモデルの写真だ。それは素人目で見ても、上手だとわかるものだった。
「あれね。でも、あんなのが役に立つの?」
「役立つわよ。だって、知り合いの会社っておもちゃを作っているのよ。」
なんと言う事だ。まさに息子にうってつけの仕事でないか。うれしさは更に表情に出ていた。
「だから、息子さんさえ良かったら、話だけでも聞いてもらえないかな?」
「そんな、良かったらだなんて。絶対に話聞かせに行かせるわ。」
ずっと、母親は息子の事で悩んでいた。表情が、暗くなるのを何度も見ていた。それがどうだ。この表情。山下もうれしくなった。
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