鏡の中の僕に、花束を・・・
「そっか。わからないか。そう言う時は、たくさんって言うんだよ。」
「たくさん?」
「そう、たくさん。覚えたかな?」
「うん、覚えたよ。たくさん。たくさん。たくさん・・・。」
意味もなく繰り返した。
そんな事をしていると、母親は髪の毛を切り終わっていた。
「はい、お終い。」
ここからが僕の最も好きな瞬間だ。どんな風に変わったのかドキドキが止まらない。母親もそれを知っていて、鏡を出すのをわざと焦らした。
「お母さん、早くぅ。」
僕が甘えた声を出すと、お母さんはやっと出してくれた。
「はい。」
目の前に、大きな鏡が現れた。
ドキドキ、ドキドキ。
「うわぁ。お母さん、上手だね。すごいよ。」
「ふふふ・・・。そう?」
母親はまんざらでもない顔をしていた。
その時だ。風が吹いた。まだ、髪の毛を払いきっていなかったからだろう。それらが鏡にたくさんついてしまった。

鍵が開いたのはこの時だ。
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